現代のオフィスづくりの基本的な視点は、パノプティコンからポリオプティコンへの移行の発想で決まる

21世紀のオフィスは、多様化している

今、オフィスのあり方は、本当に多様化してきています。

20世紀後半のオフィスというのは、どこの会社に行っても、同じような形でした。

「島」といわれる、一番奥の課長席の前面に、向かいあう形で机が並べられて、課が島を構成し、その島が、横に配列され、その島を眺められる奥に、部長席が配置されている、という形が、どこの会社でも基本形でした。

それと独立して、役員は個室を持ち、そこに役員秘書の方が業務を補佐していました。

一方、21世紀になり、オフィスは、多様な形に発展を遂げています。

そのため、会社によって、オフィスの形が、大きく異なっているということも、珍しくなくなりました。

しかし、逆に、私どもオフィスの設計施工をする側からみて、奇抜を狙いすぎているようなオフィスも見受けられます。

本当に、このオフィス、機能的に大丈夫?と感じることも、正直、あります。

このようなオフィスの多様化の時代に、どのような発想で、オフィスのあり方にアプローチしたらよいのかと、悩んでいる経営者や総務の責任者の方もおいでになると思います。

そこで、今回は、そんなお悩みに対する、オフィスのあり方を見定める、一つの視点をご紹介したいと思います。

オフィスづくりは、「パノプティコン」から「ポリオプティコン」へと変化している

まず、オフィスは、社員が仕事をそこで行い、生産性をあげるために存在するものです。

20世紀のオフィスは、パノプティコン(一望監視施設)という要素を重視して造られていました。

部長席、そして課長席から、社員の仕事ぶりを一望でき、仕事をきちんとやっているかを監視するために、島形のオフィスが最も効率的でした。

しかし、21世紀に入り、社員を人が一望して、監視をする必要がなくなりました。

DX化は、オフィスという場所に収納せざるを得なかった紙情報をデジタル化して、ハードディスクなどの記憶装置に収納できるようになり、更には、クラウドのサーバーに収納してどの端末からでも共有できるようになりました。

それに従い、コピー機の利用も減少傾向にあります。

情報は、FAXではなく、電子メールで受送信するのが普通になり、紙で出力するのではなく、添付ファイルを直接データーに保存できるようになりました。

電話よりも証拠を残しやすいメールでのコミュニケーションが、ビジネスユースで普及しました。

加えて、メールや会話を行う電話は、オフィスの机の上でなく、高機能のスマートフォンとして、ほとんどの社員が持ち歩けるようになりました。

Zoomなどの、相互映像情報を比較的軽いデーター量で受送信できるインフラが低料金で利用できるようになったことにより、ほとんどの連絡会議は、テレワークで行えるようになりました。

社員が自分の机という場所に拘束されないでも仕事が進められるようになり、社員の業務の管理は、グループウエアーが担うようになっています。

こうなると、パノプティコン(一望監視施設)に頼っていた管理が機能しなくなります。

ヒトが、机の上で何をしているかによって、生産性が図られていた時代から、どこにいても、どれだけの成果が出せるかによって管理をする必要性が出てきました。

社員が自宅にいても、カフェにいても、会社の中のどこにいても、仕事の生産性があがれば、その社員がしっかり仕事をしていると評価すべきなのです。

一方、机に座っていて仕事をしているふりをしていれば済んでいた時代よりも、むしろ、管理は厳しくなっているのです。

これが、ポリオプティコンという新しい哲学用語で呼ばれる、「21世紀の管理」です。

出退勤や勤務態度を監視するという監視要素が減少し、どこにいても、生産性と成果を出せる人材を評価する必要性が高まってきたため、DXを駆使して、分散した個の成果を管理するポリオプティコンの管理が重要になってきました。

中国のように、政府がAIを駆使して人民を自動的に監視・記録・登録する「モノプティコン」は、人権侵害のポテンシャルを秘めた、未来の独裁恐怖政治の世界ですが、自由主義国である日本社会は、DXによって行動を監視するのではなく、生産性と成果を管理する社会に移行しているわけです。

オフィスが変化をしているのは、「パノプティコン」から「ポリオプティコン」へ、「監視から管理」へと変化していることによる現象なのです。

机のうえで作業をしている内容を、上司が監視するオフィスから、DXの導入状況に従って、社員の生産性が最も上がるための環境とインフラを提供するのがオフィスの役割に変貌したのです。

監視する施設から、生産性向上と成果を出せる環境への変化が、オフィスづくりの基本的な視点になります。

従って、オフィスを、新入社員の「ウケ」がよいようにと、遊びの要素を入れ過ぎたり、DXによる業務改革や健康経営、更に生産性向上や成果評価への人事評価システムの移行などのソフト面の改革をせずに、オフィスファシリティというハードだけを変えてしまうと、かえって生産性を落としてしまい、何のためのオフィスの改善なのか、本末転倒になってしまうのではないでしょうか?

以上、参考になれば幸いです。

続く

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