注目を集める、ル・ボンの「群衆心理」
ギュスターヴ・ル・ボン著「群衆心理」という書籍が、今、にわかに読者を増やしています。
フランス革命のとき、ロベスピエールが齎した熱狂を、冷静に観察したル・ボンによって執筆され、その後、ヒトラーによって愛読され、ナチズムへのドイツ人の熱狂を引き起こす手段に使われたという、「禁断の書」です。
この著作が、2021年に起きたアメリカ議会議事堂襲撃事件における、トランプ元大統領の大衆蜂起手法と、見事に適合していたことから、この本が、今、改めて、世界の知識人によって読まれ始め、日本でも注目を集めています。
大衆の群集心理を利用する独裁志向者
「群衆心理」は、普段、冷静でおとなしい人々が、群集心理を利用しようとするものによって、残忍な群集へと変貌し、集団で破壊行為や破廉恥行為に及ぶ、その心理状態を、冷静な分析によってあばいた書籍です。
群集化し、一人一人の顔を失った人々は、現代のSNSの中における、ネット右翼行動や個人的攻撃にも観ることができます。
そして、問題なのは、それがその異常心理を利用する目的をもって扇動する、独裁志向者によって、合目的的に利用されてしまうということです。
ナチズムによる、ユダヤ人大量虐殺など、非常に冷静で論理的な民族であるドイツ人が、第二次世界大戦後に、何故、そのようなことをやってしまったのかと、世界の人々が首を傾げるような異常な残忍な行為を、平然とやってのけてしまったのは、群集心理を利用する独裁者によって利用されたためです。
SNSで拡散する陰謀論と、コロナ禍の群集心理
この群集心理を独裁者が利用する手法として、ル・ボンが掲げるのが、「陰謀論」の活用です。
第一次世界大戦後に、ナチス党によって喧伝された、ユダヤ人の世界征服陰謀論は、その内容の幼稚さにも関わらず、当時のドイツ国民はそれに乗り、反ユダヤを標ぼうするナチス独裁を民主的に許してしまい、ホロコーストによる大量虐殺の黒い歴史を、人類の歴史に刻んでしまいました。
21世紀の現代、SNSでは、陰謀論が拡散をしやすくなっています。
陰謀論が、一部のマニアの間の「言語的なお遊び」にとどまっているうちは、問題ないのですが、これを利用する目的を明確に持った扇動者によって利用されると、大衆はあっけなく、首を傾げるような稚拙な内容の陰謀論に騙されてしまいます。
コロナ禍で、ワクチンを巡る陰謀論が吹き荒れたアメリカでは、明らかに政治的な意図をもって、それが利用されました。
企業の経営は、群集心理を見極める時代へ
陰謀論を利用されると、企業は非常に脆いものです。
いわれのない言葉による攻撃や炎上が特定の企業に向けて起きてしまうと、企業がどんなに客観的な説明や火消をしても、扇動された大衆の攻撃はエスカレートし、企業はブランド的に傷ついてしまいます。
仮に、このような群集心理を活用した攻撃や炎上を特定企業や経営者が受けた場合、企業の経営者は、冷静を保ちこれに反論することなく、時がたつのを待つことが肝要です。
2022年、楽天の三木谷社長が、明らかに政治的な意図をもった、特定の暴露系ユーチューバーによってスキャンダルの暴露の攻撃を受けました。
三木谷社長は、これに何ら反論することなく、冷静に受け流しましたので、これは直ぐに火が消えてしまいました。
群集心理による攻撃や炎上は、相手が右往左往して謝罪などをすることで、かえって炎上の火が燃え上がるものです。
群集心理は、非常に移ろいやすく、かつ利用されやすいものだということを日頃から念頭におき、万が一、そこから攻撃が起きた場合の対応を日頃から想定しておくことも、大切です。
以上、参考になれば幸いです。