人を採用しなければならず、さりとて・・・
企業の総務人事にとって、人材採用に対する問題は、次第に深刻になってきています。
長期的に、人材が減少する日本社会にあっては、新規採用を継続しなければ、将来にわたって事業を継続することはできないことは、総論としては、当然でしょう。
一方で、時代はどんどん不安定になっていきます。法定福利を含む人件費を、長期的に費用化していくためには、雇用した従業員の生産性があがりつづけなければなりません。
しかし、新卒・中途を問わず、採用後に、すべての従業員が高い生産性を発揮するわけではありません。
一昔前の日本企業であれば、終身雇用を前提に、中長期的な目線で、人材をOJTの中の育成に委ねて待つことが当たり前だったと思います。
しかし、今の日本企業で、そのような悠長なことを言っていられる企業は、少ないのではないかと思います。加えて、新型コロナ禍で加速したテレワーク化で、今後、企業の中で、日本企業の人材育成を支えてきたOJTが、非常に機能しにくくなってきました。
経営を取り巻く環境をみても、長期的な目線にたって人材を育成してゆけばよいという時代ではなくなりました。採用し、短期間で、自立して生産性を向上させられないと見極めた場合、解雇も辞さない、と考えてゆかなければ、生産性の低い余剰人員を抱えて、余剰コストを垂れ流します。それでは、生産性の高い従業員の貢献度に応えてゆくことができなくなり、人材の流出を加速させることになるでしょう。
そのような状況の中、採用した従業員を、6か月の試用期間で見切りをつけなければならない事態は、今後、益々増えると予想されます。雇用契約をした場合、6か月後に、特定の従業員を解雇したいという、不幸な事態になった場合、果たして、これを企業が自由にできるのかという問題は、今後、大きな問題になるでしょう。
今回は、そのような問題について考えていきたいと思います。
有期雇用契約と、試用期間
雇用契約を従業員と締結した場合、そこに、6か月の有期雇用期間が設定されている場合が殆どだと思います。
これが、6か月の有期雇用契約と解釈されるのか、あるいは、6か月の試用期間と解釈されるのか、という基準は、どこにあるのでしょうか?
6か月の有期雇用であれば、6か月で、この契約を終了することは、それほど問題がないように思います。しかし、これが試用期間であった場合、6か月の期間満了で、契約を打ち切ることは、かなり難しいように思います。
この違いは、企業にとって、大きな問題です。
この問題について、最高裁判所は、神戸弘陵学園事件(最判平成2年6月5日民集44巻4号668頁)で、次のように判示しています。
「期間の定めがある労働契約という形式がとられていたとしても、職務内容が正社員と同一で、労働者の適格判断のために契約期間が設定されている場合には、特段の事情がない限り、その期間の定めは、(契約の存続期間ではなく)期間の定めのない労働契約における試用期間とみるべき」
つまり、正社員の雇用契約に、雇用期間が6か月と定められていたとしても、原則として、この定めは、期間の定めのない雇用契約の試用期間と解釈され、その従業員の能力や会社の都合により、6か月で契約を打ち切ることは、相当に難しい(もし、この打ち切りを労働者が労働基準監督署に持ち込み、裁判を起こして争ってきた場合、会社が負ける可能性が大きい)ということになります。
ですから、最初の6か月間でシビアに、その従業員の能力や生産性を観たいという企業の場合、はっきりと、契約社員として雇用し、そのうえで、6か月間の有期雇用契約を締結し、その間は、研修期間ではなく、契約社員として仕事をさせ、その後、6か月経過後に、改めて、無期限の雇用契約を締結するという形をとらなければならないということです。
加えて、最高裁は、契約の形式よりも、実質的な仕事が正社員としての仕事になっているかどうかを重視していますので、契約の形式さえ有期契約にすれば大丈夫、というわけではありませんので注意が必要です。
以上、ご参考になれば、幸いです。
続く