特許取得が可能な要件
「私(うちの会社)が、こんなすごい技術を盛り込んだ商品を発売したんです!
これって、特許とれないでしょうかね?」
これは、よく知的財産権の法務を知らない方に多い台詞です。
残念ながら、この段階(商品を発売している段階)では、実は、もう特許は一切とれないんです。
さて、このお話を理解いただくためには、特許が取得できる要件の説明から書いて参りましょう。
特許を取得するためには、以下の5つの要件を充足する必要があります。
②新規性
③進歩性
④先願がないこと
⑤公序良俗に反しないこと
新規性の要件
さて、この中で、先の問題にかかわるのは、②の新規性です。
つまり、特許として認められるためには、これまで発表されたことがない、新しい発明であること、が必要になるというのが、この新規性の要件です。
特許の要件の中で、クリアーするのが非常に難しいのは、この②の新規性と、③の進歩性の要件です。
特に新規性が認められるというためには、これまで誰も、発表をしていない「新しい技術」である必要があります。
特許出願の前に公知になっている技術は、どんなに進歩性があって、先願がないものであっても、もうその技術は特許として認められることはありません。
出願前に公知になっているとは、文献で発表される、インターネットで公表されるなど、かなり幅広いと解されています。外国で公表されていても、公知となってしまいます。
そして、重要なポイントは、「自分自身で公知にした」ことも、ここに含まれてしまいます。
つまり、特許として認められるためには、自分以外の世界中の誰も、その技術を一切公表していないことは勿論、自分自身でも、一切公表していないことが必要です。
「私(うちの会社)が、こんなすごい技術を盛り込んだ商品を発売したんです!
これって、特許とれないでしょうかね?」
という、先ほどの台詞は、その技術を盛り込んだ商品を発売してしまっていますから、この段階では、もう公知の技術となっており、特許取得はできません。
発売前に、広告を印刷したり、論文を書いたりしても、取得できないのです。
そのため、特許出願を少しでも考えているのであれば、その技術の研究は、非常に戦略的かつ機密のうちに進めなければなりません。
特定の研究者しか入れない研究室の中で行い、特許が取得できる段階まで、非公表を守らなければなりません。仮に自社の社員でも、営業担当者などが立ち入って、その技術を知り、それを取引先などへ漏洩してしまうと、もう特許を取得することはできなくなります。
特許戦略をとるべきか?
一方で、特許を出願後、特許庁は、特許を認めるために、新規性を含む、先の要件が充足をしているか、調査を行わなければなりません。
単に先願がないか、だけの確認なら、調査は比較的しやすいでしょう。しかし、新規性の要件の確認は、「世界のどこにも公開されていない」ことの調査ですから、これは、大変です。
そうなると、当然、特許庁の審査期間が長くなります。
特許申請は、同じ技術を申請したもの同士は、先に申請をしたものが取得できます。
しかし、例えば、競合他社が、同じ技術をたまたま研究し、一方の会社がそれを特許出願した後で、もう一方の会社が特許出願をせずに商品化して販売に入ってしまった場合、先に出願した会社は特許を取得できなくなります。そればかりか、特許の出願や審査期間中に、販売の準備ができないので、あとから、特許を取得しないで、即、販売に入った会社に、マーケットも席捲されてしまう可能性すらあります。
技術は、日進月歩であるわけですから、今や、その開発は時間との闘いであり、かつ、開発をしたら、即、開発投資を回収する必要もあります。特許を申請すれば、取得できるまで、研究投資の回収もできません。
これが、特許戦略の難しい点です。
特許が、ビジネスの上で、正しい戦略となるとは限らないのです。
従って、技術の研究を進める場合、特許申請を選ばず、販売を急ぐ企業も多くなってきています。
特許は、たまたま、いい技術ができたから、取得をしようというような、非戦略的な発想でつかえるものではないのです。
以上、ご参考にしていただければ、幸いです。
続く