民法の大改正の、「目玉」の一つが、瑕疵(かし)担保責任の改正です
企業であれ、個人であれ、日常の取引の中で、法務で避けて通れないのが、民法の知識です。
民法は、日本の私人間の法律関係を規定する私法の、最も基本的な法律で、企業法務の基本です。その民法が、明治時代以来の最大の改正があり、2020年4月に施行されました。
今回の大改正の目玉は、債権法の大改正です。
債権法は、企業のビジネスマンが、知らないでは済まされない内容です。この民法改正の内容もおさえておかなければなりませんね。
明治31年の民法が施行されて以来、既に、120年経過し、判例も学説も多岐にわたる集積があった中で、それを踏まえて、現代に通じる民法に、このたび、生まれ変わったわけです。
さて、そんな大改正の事項の一つが、瑕疵(かし)担保責任という言葉が消え、契約不適合責任に生まれ変わったことです。
特に、法学部をご出身されたかたは、瑕疵担保という言葉は使い慣れた用語ですから、今後それを口にしてしまうと、「歳がばれてしまう」恥ずかしい目にあってしまいます(笑)。
ご注意ください。
勿論、要件効果も変わっています。従って、今回は、新しく規定された契約不適合責任が、瑕疵担保責任と、どこが変わったのかを、わかりやすく解説をして参ります。
瑕疵(かし)担保責任は、何が問題だったのか?
さて、改正されたということは、瑕疵担保責任という規定に、問題があったわけです。
「瑕疵」という言葉が、法学部を出身以外の新入社員から、
「これ、なんて読むんですか?」
と、質問されるほど、日常用語からかけ離れた言葉であった、というだけが改正理由ではありません。
では、瑕疵担保責任の、どこに、問題があったのでしょうか?
瑕疵担保責任とは、売買契約・請負契約において、契約の目的物に瑕疵(=きず)があった場合の、売主や請負人の責任です。
さて、この場合の契約の目的物の「きず」とは、例えば、書店で本を買う、という売買契約でいえば、「本に乱丁があった」というようなことです。
さて、売買契約において、瑕疵担保責任を規定していた、旧民法570条は、瑕疵担保責任の効果として、契約の解除と、損害賠償を規定していました。
でも、ちょっと待ってくださいよ。
本屋で本を買って、そこに乱丁があったら、あなたはどうしますか?
普通は、「乱丁があったから、ちゃんとした本に変えてくれ!」と言いますよね。そう、代替物交換を要求するはずです。それをしないで、解除=これを返すから返金しろ、加えて、損害賠償=乱丁の本を購入してしまったことによる損害を賠償しろ、とは、言わないではないですか。
では、何故、民法570条は、そんな非常識な立法をしたのでしょうか?
これを、民法の大家である我妻栄博士は、「民法570条は、特定物売買に適用される法定責任の規定である」と説明をしたのです。
つまり、Amazonで注文して、届けてくるような種類物売買の場合、乱丁の本が届いたときは、これは、民法415条の債務不履行責任(不完全履行責任)で解決しましょう。そして、民法570条の出番は、あなたが、本屋に行って、平積みの本の中から、一番、良さそうな本を自分自身で特定し、レジに行って、「この本を下さい」と言って買った場合に適用します。
こう説明したわけです。
特定物売買というのは、例えば、中古車販売のように、購入対象が、「この車!」と特定して買うわけでありますから、代替物が存在しないわけです。だから、代替物請求は、効果としてないんだと、こう、説明をしました。
そして、瑕疵担保責任の追及できる期間が、債権の消滅時効の期間から比較して、大幅に短いもの、債務不履行とは別の法定責任だから、と、説明したのです。
この説明の仕方を、後の民法学者は、「特定物のドグマ」と呼び、批判しました。
どういうことかというと、たった一台しかこの世に存在しない中古車の売買と、本屋に平積みされている本の一冊を、買主が選んだ場合とを、特定という概念で、同じに説明をするというのは、おかしい!と、こう批判したわけです。
法律学的に言うと、種類物売買には民法415条の債務不履行で、特定物売買の場合は民法570条の瑕疵担保で解決をするというのは、おかしいと、後の学者は我妻説を批判しました。
ただ、これは、我妻博士が悪いわけではなくて、民法の規定が悪いでしょ、ということが、今回の改正で、とりあげられました。
こうして、判例や学説で大きな争いを読んだ瑕疵担保責任という概念が消え、論点が整理されて、契約不適合責任という言葉に生まれ変わったのです。
契約不適合責任の改正点
では、このような瑕疵担保責任の問題点をうけて成立した契約不適合責任は、どこが変わったのでしょうか?
瑕疵担保責任は、これまで、債務不履行とは別の法定責任であると解する学説が有力でした。これを契約不適合責任では、債務不履行の一場面であると、明確に位置づけられました。
その結果、瑕疵担保責任の効果でも規定されていた解除・損害賠償に加え、修補請求、代金減額請求が明記されました。そして、解除については、これまで債務不履行の効果である解除で要求されてきた帰責性が要件から外れました。
そして、これまで、債務不履行とは別の法的責任として、買主が事実を知った時から1年以内という短期で行使しなければならないとされてきた瑕疵担保責任の存続期間が、債務の消滅時効である一般原則に従い、権利を行使することができるときから10年、権利を行使しうることを知ったときから5年となりました。
民法の規定をそのまま解釈すると、非常に使いにくかった瑕疵担保責任が、債務不履行の一場面と位置付けられて、非常にすっきりとして、使いやすくなりました。
このように、民法は、明治時代の制定から120年をえて、大きく、改正されています。ビジネスの実務で活躍する皆さんのため、今後も、この改正の重要点に関する情報を、時々、発信して参ります。
以上、参考にしていただければ、幸いです。
続く