非公開会社で、2004年以前に設立した株式会社は、原則として株券発行会社でした!
非公開会社で、代表取締役社長がオーナーの中小企業の経理や総務を担当されている方が、今回は、「え!!」と驚く会社法務のお話を発信させていただきましょう。大企業の経理や総務の方でも、今は、M&Aで、上記のような会社を買収することもあるでしょうから、
「ウチの会社には関係ないよ」とはいいきれない話です!
さて、2020年から勃発した新型コロナ禍のような事態が、また、起きたとします。こういう場合、企業で最初に起きる問題は、営業が一時的に停止せざるをえず、社員の給与や取引先への支払いの資金繰りが苦しくなることです。総務や経理のご担当の方は、キャッシュフローを監視していると思いますので、胃の痛くなるような想いを経験されるでしょう。
そうした場合、すぐに、非公開会社で、代表取締役社長がオーナーの中小企業の経理や総務の担当の方が、資金繰りの逼迫を社長に知らせなければなりません。
社長も、大慌て。
緊急のことということで、代表取締役社長が、個人の資金を会社に入れ、あるいは、役員報酬を会社に戻して対処するという対処をとることになったとしましょう。
取引銀行との関係が良好で、運転資金をスムーズに借入調達ができる企業であっても、先が見えない状態のなかで、今後、投資資金がどれだけ必要になるか判断ができないわけです。従って、安易に、資金の逼迫を取引銀行に悟られたくはないでしょう。
仮に、代表取締役社長が、個人の資金を会社に入れるとしても、取引銀行の「見栄え」が悪くなりますから、仮に代表取締役社長の役員貸し付けで、負債を増やしたくないな、と賢明な社長であれば判断するでしょう。
そこで、このような場合、急遽、キャッシュを間に合わせるために、社長が払い込んだ金額を、発行可能株式の範囲内で、新株を社長に対して、発行することで対処することが最良の策です。
もちろん、新株を発行して、資本金を増やしてしまうと、変更登記手続きや、税務関係行政機関への届け出も面倒です。そうした場合、資本金の2分の1を超えない限度で、資本準備金に計上する方法もあります。
このようにして、代表取締役から払い込まれた金額を、純資産に計上すれば、取引銀行などの債権者との関係でも、非常に評価が高い会計処理となります。
臨時株主総会議事録(又は取締役会議事録)を急いで作成し、新株発行の承認決議を書面化し、あとは、株主名簿を書き換える。やれやれ、これで、何とかなったな! と、ほっと胸をなでおろしていいでしょうか?
しかし、ここで、注意が必要なことがあります。
それは、「ウチの会社は、株券発行会社のままではないか?」というチェックです。
経理や総務のご担当の方が、仮に法学部や会計学部のご卒業で、大学で、会社法を勉強されてこられたとしましょう。そのような方は、こう、覚えておられませんか?
株式会社は、定款に株券発行の記載がない限り、原則として、株券非発行会社だよね、と(会社法214条)。
第一、おそらく、経理や総務のご担当者の方でも、40歳以下の方であれば、「株券」なんて、お目にかかったことはないでしょうから。
でも、実は、ここ、要注意なんです。
実は、株式会社が原則として非株券発行会社になったのは、2004年の会社法改正です。それ以前の会社法では、原則が逆転していたのをご存知ですか?
2004年改正前の株式会社法は、商法の時代から、原則株券発行会社だったのです。そのため、2004年以前に設立した会社の多くが、定款で、株券発行会社である旨が規定されているのです。
この定款を、きちんと、2004年改正後に修正していればよいのですが、定款変更なんて、株主総会の特別決議が必要な事項ですから、多くの会社では、株券発行の規定のままの定款で、放置されているのです。
そうなると、大変です。
先ほどの事例のように、代表取締役の払い込みを新株発行で処理する場合、有価証券としての株券を発行しなければならないのです。
株券発行会社が、株券を発行しないまま、新株を発行した場合に、起きる問題
ところが、実際には、日本の多くの株券発行会社は、自社が株券発行会社であることの認識がないまま、株券を発行せずに新株を発行しているケースが、非常に多いのです。
株券というのは、株式の権利(共益権と自益権)を株券という書面に合体させた、有価証券です。約束手形、為替手形、荷為替手形、小切手などと同じで、その書面がないと、権利の行使ができません。
株券発行会社では、株主に対して株券発行が義務付けられており、株主権の行使には、有価証券としての株券の所持が必須です。ところが、株券が未発行のままですと、株主総会の議決権などを株券なしで行使しているわけですから、その議決は適法ではありません。
このような状態のまま、知らずに時を重ねると、非常に重大な支障が発生します。例えば、その重大な支障が表面化する代表的な場面は、現在、事業承継で活用が多くなってきた、M&Aです。
事業承継をする親族がおらず、従業員の雇用を守るために、オーナー社長が自分の株式を、買収企業に売るのが、典型的な事業承継型M&Aです。
事業承継型M&Aでは、買収側に立つのは、売却側の企業よりも規模が大きく、資本力がある大企業です。そして、買収側が、買収の意向表明の後に、必ず行うのが、DD(デューデリジェンス)です。
DDは、会計税務DD、法務DD、経営DDの3方面から行うのが普通です。このうち、法務DDは、買収企業の派遣する弁護士を中心とする法務メンバーが、コンプライアンスチェックを行います。この時、当然、売却側企業の創業年次や定款の記載から、この会社が株券発行会社であることが判ります。ところが、株券が未発行のまま経営を行っていたとなりますと、この会社の長年の株主総会決議が、無権限の株主の決議によって遂行されていたという判断をされてしまいます。売却段階になって、慌てて株券を発行しても、その法的な議決権の瑕疵は治癒されません。
最悪の場合、コンプライアンス意識が非常に低い会社と判断され、M&Aの話がご破算になってしまうこともあります。仮に、そこまでいかなかったとしても、「この会社はコンプライアンス意識が低い」とレッテルを張られ、徹底的な法務DDが行われる契機にもなりかねません。
こういう現実の問題が発生してからでは取り返しがつきませんね。
株券発行の要否の確認をしましょう
まず、総務の皆さんは、自社の設立年月日が、2004年の会社法改正の前か後かを確認しましょう。もし、前だった場合、至急、最新の定款を確認してください。
ここに、株券発行会社であると記載がされていた場合、顧問弁護士か、登記申請を依頼される司法書士に相談して、対応を検討するのがよいと思います。
以上、参考になれば光栄です。
続く