会社員等の厚生年金負担の構造
会社員が負担して、給与から引かれている厚生年金や健康保険は、本人負担分に追加して会社が約半額を負担するという制度設計になっています。
自営業の方が個人で加入する国民年金と国民健康保険には、このような会社負担が存在せず、従って、国民年金の場合、本人が支払っている分が、自分の年金の支払い分となります。
自分の支払い分は、国民が全員加入する義務がある部分で、これを俗に、1階部分と呼び、職業によって上乗せされる部分(会社負担部分を含みます)を、俗に2階部分と呼びます。
この1階部分と2階部分をあわせたものを、公的年金と呼びます。
「ねんきん定期便」に事業者負担記載が、2025年4月からスタート
さて、会社員の場合、会社が個人の年金の約半額を負担するわけですから、会社員は、当然、自営業のヒトよりも、年金において手厚い受取が期待できると解釈されています。
ところが、個人に年金の状況の情報の発信をしている「ねんきん定期便」は、これまで個人が支払った年金金額を記載し、その金額と比較して、「年金は、こんなに手厚く支払われています」と誤解されうるような記載が、長年にわたって行われてきました。
この記載に対し、SNSなどで、「多く見せている」「事業主の負担はどこへいったのか?」といった批判が相次ぎました。
そこで、ようやく、2025年4月から、「事業主も加入者と同額の保険料を負担している」旨の記載が行われることになりました。
企業の人件費の負担感覚と会社員の手取りは、こんなにずれている
日本の場合、企業の支払っている人件費と、会社員が受け取って利用できる金額との間には、大きなズレがあります。
例えば、ここに給与総額が300,000円の45歳会社員(独身者で扶養者ゼロ) がいるとします。
2025年4月現在の健康保険・厚生年金の保険料率表と、源泉徴収額表を使って、このズレがどの程度なのかを試算してみましょう。
会社の支払額は、本人の給与に加え、事業者負担部分(会計上は、法定福利として損金処理される経費)があります。
・給与 300,000円
・法定福利 44,700円
上記合計が、会社の支払額となり、344,700円となります。
一方、本人の受け取っている金額は、給与300,000円から、社会保険料と、所得税の源泉徴収、更には住民税がひかれた手取金額から、更に、消費の度に消費税がひかれています。
・ 給与 300,000円
・ 社会保険 44,700円
・ 源泉徴収額 6,750円
ちなみに住民税は前年の所得水準や様々な条件によって変わりますので、一概に定まりませんが、上記の所得の水準では、おおよそ、20,000円程度となると予測できます。そうしますと、この人の手取りの給与は、約228,500円程度となります。
そして、この方が、受け取った手取りをすべて10%の消費税課税商品の消費に使っていると仮定しますと、この人の月の支払い消費税額は、20,770円程度となります。
この結果、会社はこの会社員1名に月間344,700円を支払っているのに、この会社員の方の消費できるのは、わずかに、207,730円にしかなりません。
会社員も満足感が極めて低くなりますが、会社にとっても、ここまで人件費負担と本人が受ける満足が乖離していたのでは、たまったものではありません。
賃金アップの議論は、手取り金額を考慮すべきでは?
政治的に、賃上げが叫ばれています。この議論では、給与額だけが論点になりますが、むしろ、会社と働く人双方の問題点は、給与の額面額よりも、この会社の負担と本人の満足感の乖離なのではないでしょうか?
賃金アップの議論は、むしろ、法定福利や消費税負担額まで含めた、会社負担と本人の満足感の乖離を少なくする議論とセットで行うべきなのではないでしょうか?
以上、ご参考になれば幸いです。
続く