「売」「粗」「在」
営業や販売の方が、現場の中で、会社の財務を気にしなければならないのは、「3つの事項」です。
オペレーションの現場では、これを、「売」「粗」「在」と呼びます。
まず、営業や販売の現場の社員の方が、最初に考える目標は、「売上をあげる」ことです。
そして、売上があがってくると、次に考えなければならないのが、「粗利益」をあげることです。
そして、粗利益をあげるうえで、メーカーから販売店まで、重要な要素になってくるのが、「在庫管理」です。
売上→粗利→在庫調整の3つの事項を、順次考えないと、営業や販売の実績は、会社の営業利益に繋がりません。
売上原価の構造
この「売」「粗」「在」という事項は、企業の中で、別々にあるわけではなく、3つが密接にからんでいます。
そもそも売上があがってこなければ、バックヤードには在庫が積みあがり、その結果、粗利益を圧縮します。売上があがっても、それにそなえて過剰在庫を仕入れ過ぎてしまえば、売上があがらないのと同じに、粗利益を圧縮してしまいます。粗利益をあげるという現場の目標があって、そのために、売上をあげ、在庫の適切な管理を行うのが、企業の現場管理の重要な観点です。
純粋なサービス業やIT業のように、在庫を持たない企業の場合も、粗利益が売上に一致するわけではありません。サービス業やIT業の場合、在庫の代わりになるのは、ヒトのチカラですから、人件費のある部分が在庫と同様の機能を果たします。売り上げをあげようとして、過剰な制作人件費をかければ、粗利益は落ちるのです。
純粋なサービス業やIT業が、財務上、ヒトの経費を給与などの販管費で一括管理していたとしても、実際上は、その給与などの大部分が在庫と同様の機能を果たしているわけです。
さて、このコラムの話題は、モノとしての在庫を持つ企業が、粗利益を適切に管理するための、在庫の調整法についてです。
さて、ここまで、粗利益と書いてきましたが、この言葉は、ビジネス界の日常用語です。
会計の世界の専門用語では、この粗利益を、売上利益と呼んでいます。
この売上利益を算出する公式は、
売上利益=売上―売上原価
となります。
そして、売上原価を算出する公式は、
売上原価=期首在庫(前期繰越商品に一致する)+期中仕入―期末棚卸在庫
となります。
従って、売上利益という勘定科目は、期中では計算できません。期中にわかっているのは、前期の財務諸表の流動資産に掲載されている繰越商品(これが、そのまま今期の期首の在庫となります)と、期中の仕入高です。現場がコントロールできるのは、期中の仕入れだけです。
さて、そうすると、ここに、会社として売上利益をどうコントロールするかという場合の、期末在庫の棚卸に向かう時点での課題が発生してくるわけです。
売上原価の構造からみて、売上利益のコントロールを行おうとすれば、期末在庫の棚卸の前に対策を図る必要があるのです。在庫の棚卸とは、決算日に、漫然と倉庫にある商品数と、その原価を記録し、それを単純に、期末棚卸高にすればよいというものではありません。
売上利益を、今期、どのように出すか、という戦略的な観点で、期末在庫をコントロールすべきなのです。
棚卸資産のコントロールの決め手は、「商品評価損」の管理
期中の帳簿上の在庫管理によって把握された在庫を、ここでは理論在庫と呼びましょう。
この理論在庫は、すべての商品在庫が、計算上、これだけなければなりません、という、「あるべき」論の在庫です。
しかし、商品在庫の実態は、そのような理論的なものとは差異が生じます。商品の中には、実際あるはずなのに、何らかの理由で倉庫に存在しないものもあります。理論在庫と実在庫の「ずれ」です。
このような「ずれ」を、会計では棚卸減耗という勘定科目でマイナス評価します。
この棚卸減耗は、実際は、決算日に実地棚卸を行ってみてはじめて把握できます。
一方、商品の損傷や、商品の腐敗、更に、商品の市場価格の下落など、実地棚卸ではカウントされない事項も、実際の商品管理の現場では発生しています。このマイナス評価は、棚卸減耗とは別に、商品評価損という勘定科目で行います。
さて、実は、棚卸資産のコントロール、言い換えれば、売上利益のコントロールで重要なのは、この商品評価損なのです。
商品評価損は、実地棚卸では見つけられません。とりわけ、商品の市場価格の下落に関しては、商品に精通した責任者が、棚卸に先立ち、現場を観察することではじめて把握できるわけです。しかも、商品が、今、どの程度の市場価値があるのか、ということは、ある意味、高度な「価値判断」が入らざるをえないのです。
さて、会計上、この商品評価損を、仕入勘定に含めて計上するかどうかという方針は、企業ごとの会計慣行によって決めることができます。
減価償却などの、税務当局が厳しいルールで統制されているのとは違い、仕入れという企業特有の管理については、企業独自のルールが会計上も、税務上も認められやすいものです。
例えば、ある企業が、商品評価損を、仕入れ勘定に反映できるというルールで、会計を運用していたとします。
そうすると、次のような税務戦略判断が可能になるわけです。
「今期は、どこまで、商品評価損を仕入れに含めて計上するか?」
言い換えれば、これで、売上原価、そして最終的に売上利益をコントロールすることが可能になります。
このコントロールを使い、財務に強い企業は、決算棚卸の前に、本年度の売上利益をどの程度に着地させるかを検討し、その目標にあわせて、売上利益を一定範囲で操縦できるのが、商品評価損勘定なのです。
商品評価損の操縦の方法
では、具体的に、商品評価損を、どのように操縦するかについて、書いて参ります。
まず、第一段階では、決算になる前に、商品在庫の損傷、商品の腐敗、そして、商品の市場価格(取得原価よりも値上がりがしているもの、値下がりがしているものを抽出します)を内部調査し、その一覧表を作成します。
次に、決算の予想を行い、売上と利益に関する概算の予想をたてます。通常、財務管理がよくできている企業は、決算の1か月前には、おおよその決算数字の予想がたつと思います。
この予想をベースに、決算前に、どの程度、商品評価損を出すか、計画をするということになります。
ある程度、利益が見込め、その利益を圧縮したいという場合には、商品評価損を決算前に計上して、決算時に、時価に棚卸資産を評価替えします。また、損傷・腐敗がある、または販売に適さない、といった商品は、決算前に廃棄証明を発行してくれる業者に依頼して、廃棄を進めます。
(ちなみに、フォーワードでも、商品の廃棄を承ることができる商品もありますので、御相談ください。)
一方、利益が少ない、または赤字になりそうなときには、商品評価損は、翌期以降に出すことにすれば、棚卸資産が圧縮されず、その結果、期末棚卸高が多くなり、結果として売上原価を実態よりも圧縮することできるため、売上利益は大きくなります。
もちろん、これを過大に行ってしまうと、粉飾決算となりますが、廃棄の時期を、決算をまたいでいつにするか、という判断の程度であれば、問題はほとんどありません。
決算に際しては、期末になってから慌てるのではなく、財務の予想と商品の状況を、決算前から充分調査して、戦略的に臨むことが、会社の財務改善に役立ちます。
以上、参考にしていただければ幸いです。
続く