民法と労働法
ヒトを採用する雇用契約も、契約の一種類です。
契約というものは、基本的に民法に定められています。そのため、民法の世界の大原則である「契約自由の原則」によって、当事者間で、その内容は自由に決められるはずです。
ところが、この契約自由の原則というのは、当事者間が対等な市民であることを想定した近代法的な原理です。一方、現代における使用者と労働者は、対等な関係ではありません。確実に、雇用側である使用者が強い関係です。
そこで、現代では、雇用契約は労働法という、民法の特別法の制約を受けます。労働法の世界では、労働者の肩をもつように出来上がっています。つまり、使用者側に、契約自由の原則が大きく制約されているのです。
しかし、労働法が動き出すのは、原則として雇用契約が締結された後の話です。
雇用の段階、つまり、採用の段階では、企業側と採用希望者は、対等な関係と理解されています。つまり、企業は、採用の自由があって、その採否を自由に決定できるという解釈がなされてきました。
三菱樹脂事件
つまり、採用段階では、企業と応募者は、契約自由の原則が妥当する民法の世界によって考えることができる、という解釈です。
この考え方を最高裁判所が示した判例が、非常に有名な、三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁)です。
この最高裁判所の判例は、労働法ではなく、憲法に出てくる判例ですから、法学部出身の方でなくても、憲法を教養課程で勉強された方であれば、読んだことがない方は、まずいないというほど、有名な事件です。
三菱樹脂事件で、最高裁判所は、企業に採用の自由があるとし、「企業者が特定の思想、信条を有する者をそれゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。」と判示しました。
換言すれば、憲法14条が定める法の下の平等、あるいは、憲法19条が定める思想及び良心の自由は、最高裁判所がたつ間接効果説により、私人間効力を有しないという(厳密な法解釈学的に言えば、民法90条の公序良俗違反にならない)判断を示したと解されています。
この三菱樹脂事件が、現在に至っても、採用時点においては、労働法の世界ではなく、民法の世界の解釈による、という最高裁の立場のリーディングケースとして、用いられています。
しかし、時代は変わってきていることに注意!
では、採用段階でいえば、企業は、三菱樹脂事件の最高裁の判断を拡大解釈して、どのような応募者の事由に対しても、採用決定の自由があるのでしょうか?
これが、現在に至るまで、かなり変化していることに、注意をしなければなりません。
- 性別による採用差別
- 年齢による採用差別
- 障害による採用差別
これらは、禁止されている採用差別にあたります。つまり、現代の採用は、民法の世界の契約自由の原則が制限されはじめているのです。
ただし、以下のような合理的な区別は、認められます。
- 定年60歳の就業規則の定めがあるため、「60歳未満の方、募集」
- 18歳未満の方がやってはいけないと法律上定められているため、「18歳以上の方、募集」
- 長期雇用が前提のため、「30歳未満の方のみ、募集」
- 女子高生役モデルを募集するため、「20歳未満の女性の方、募集」
今後、採用の差別禁止内容は、拡大をしてゆくものと思います。
三菱樹脂事件は、はるか昔の事件ですし、学説上の批判も多いため、今後、最高裁判所の大法廷で、判例変更がなされる可能性もあります。
採用のときは、契約が自由だと思わずに、お気をつけください。
以上、ご参考になれば、幸いです。
続く