タックスヘイブンとは?
日本人や日本企業でも、税率の低い国・地域に法人を設立したり、海外で事業を行ったりすること自体は、もちろん違法ではありません。
しかし、「海外に会社をつくれば、日本の税金を払わなくてもよい」「タックスヘイブンに資産を移せば、日本の税務当局から把握されない」という単純な仕組みではありません。
現在では、各国の税務当局による国際的な情報交換が進み、日本にも外国子会社合算税制(CFC税制)などが整備されています。そのため、タックスヘイブンの利用を考える際には、海外法人の設立地の税率だけを見るのではなく、日本と現地国の双方の税制、事業の実態、出資関係、居住地、租税条約などを総合的に検討する必要があります。
そもそも、タックスヘイブンとは何でしょうか。
一般に、法人税や所得税などの税率が非常に低い、あるいは一定の所得について非課税制度を設けている国・地域を「タックスヘイブン(租税回避地)」と呼ぶことがあります。
ただし、「タックスヘイブン」という言葉について、世界共通の単純な定義があるわけではありません。
また、税率が低い国や、外国企業に税制上の優遇措置を設けている国・地域で事業を行うこと自体が、直ちに租税回避や脱税になるわけでもありません。
国家や地域が外国企業を誘致するため、税制、会社設立、外国資本の受け入れ、投資環境などについて優遇制度を設けることは、世界各地で行われています。
「一定の法人所得について低い税率を適用する」
「外国企業や非居住者に一定の税制上の優遇措置を設ける」
「投資を呼び込むため、一定期間の税負担を軽減する」
「国際的な金融取引や外国企業による事業活動を行いやすくする」
こうした制度を活用して外国企業や海外からの投資を誘致し、自国・地域の経済成長につなげようとする政策は、世界各地で採用されています。
その一つとして、ある特定の金融市場(オフショア)について、国内市場とは異なる規制や税制を適用する制度が設けられる場合があります。
また、外国企業の誘致や特定産業の育成を目的として経済特区を設け、法人税などについて優遇措置を講じる国もあります。
ただし、オフショア金融市場や経済特区が、そのままタックスヘイブンを意味するわけではありません。
重要なのは、その国・地域の税率だけではなく、そこで実際にどのような事業を行い、どのような人員・設備・意思決定機能を持ち、どこで利益が生み出されているのかという「事業の実態」です。
海外に法人を設立して合法的に事業を展開し、その国の制度に基づいて税制上のメリットを受けることは、国際ビジネスでは珍しいことではありません。
一方、事業実態のない海外法人などを利用し、利益だけを低税率国・地域へ移転するような行為については、日本を含む各国が国際課税のルールを強化しています。
したがって、現代の経営者が考えるべきことは、「どこに会社をつくれば税金を払わずに済むか」ではありません。
海外市場でどのような事業を行い、その事業に適した法人・組織・税務体制を、どの国に構築するのかという経営戦略の問題として考える必要があります。
これが、現代におけるタックスヘイブンや低税率国・地域を理解するうえで、まず押さえておきたい基本です。

タックスヘイブンを日本人・日本企業が活用する際の注意点
では、日本人や日本企業が、税率の低い国・地域に会社を設立したり、海外で資産を保有したりする場合、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。
まず理解しておきたいのは、「海外に資産や法人を置けば、日本の税務当局から見えなくなる」という考え方は、現在では適切ではないということです。
日本を含む各国では、国際的な脱税や租税回避に対応するため、税務当局間の情報交換が進められています。
特に、OECDが策定したCRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)によって、一定の海外金融口座に関する情報が、参加する国・地域の税務当局間で自動的に交換される仕組みが構築されています。
そのため、海外の銀行や金融機関に口座を持っているというだけで、その資産が日本の税務当局から把握されないと考えるべきではありません。
また、日本の居住者(一定の非永住者を除きます。)で、その年の12月31日時点における国外財産の合計額が5,000万円を超える場合には、原則として「国外財産調書」を税務署へ提出する必要があります。
ここで注意したいのは、この5,000万円という基準は、単純に「日本人や日本企業すべて」に適用されるものではないということです。個人の居住区分などによって適用関係が異なりますので、具体的な判断には専門家への確認が必要です。
海外送金についても、金融機関を通じた一定額を超える国外への送金や国外からの送金の受領については、金融機関から税務当局へ情報が提出される制度があります。
さらに、暗号資産についても、「匿名だから税務当局に把握されない」と考えることは適切ではありません。
国際的には、OECDによるCARF(Crypto-Asset Reporting Framework:暗号資産等報告枠組み)が整備され、日本でも暗号資産等取引に関する情報を税務当局間で交換する制度の導入が進んでいます。
つまり、海外銀行口座、海外法人、海外金融資産、暗号資産などを利用したからといって、それだけで日本の課税関係から離れるわけではありません。
一方、海外で実際に事業を行う日本企業が、現地法人を設立することは、当然ながら通常の経営活動です。
販売拠点、製造拠点、地域統括会社、物流拠点などを海外に設け、現地で人材を雇用し、設備や事務所を構え、現地市場で事業を行うことは、企業の海外進出において一般的に行われています。
その設立先として、法人税率が比較的低い国や、外国企業に対する優遇制度を持つ国・地域を選択することも、事業上の合理性があれば、経営戦略の一つとなり得ます。
ただし、日本には外国子会社合算税制、いわゆるCFC税制があります。
これは、日本の内国法人などが、実質的な事業活動を伴わない外国子会社等を利用することなどによって日本での税負担を軽減・回避する行為に対応する制度です。
外国法人が現地に事務所などを持っているか、事業を自ら管理・運営しているか、所在地国で実際に事業を行っているかなど、さまざまな要件によって課税関係が判断されます。
そのため、「法人税率の低い国に会社を設立し、そこに利益を残せば節税できる」といった単純な判断は危険です。
海外法人の所在地、株主構成、事業内容、現地での事業実態、利益の種類、日本法人との取引、役員や従業員の所在地などによって、日本側での課税関係は大きく変わります。
さらに、大規模な多国籍企業については、国際的な法人税率の引下げ競争に対応するため、一定の多国籍企業グループについて最低税率15%以上の課税を確保するグローバル・ミニマム課税も導入されています。
こうしてみると、現在の国際税務は、「税金の安い国を探せばよい」という時代から大きく変化していることがわかります。
海外事業を展開する経営者にとって重要なのは、節税だけを目的として法人所在地を決めるのではなく、事業そのものの合理性を第一に考えることです。
市場、顧客、物流、人材、金融、法制度、カントリーリスク、税制などを総合的に検討し、その結果として、最も合理的な国・地域に事業拠点を置くことが、本来あるべき海外事業戦略だと私は考えています。
タックスヘイブンや海外法人をめぐる税制は、非常に専門性の高い分野です。また、制度改正や国際的な情報交換の仕組みも継続的に変化しています。
SNSや動画などで、「海外法人をつくれば税金がかからない」「海外口座に移せば日本から把握されない」といった情報を目にすることがありますが、そのような情報だけを頼りに判断することは避けるべきでしょう。
具体的な海外法人の設立、海外資産の保有、国際取引、税務申告などについては、必ず国際税務に精通した税理士や弁護士などの専門家に確認したうえで進めることをお勧めします。
以上、参考にしていただければ、幸いです。
続く