資本金等の計上と、のれん
上場企業か、非上場企業かを問わず、新株発行や金庫株の売買に伴い、株式の払込が発生します。上場企業の場合、株価は、株式市場で形成される価格ですが、非上場企業の場合には、相対取引の交渉で株価が合意されます。
従って、株式の払い込みが会社の現預金に入金された場合、その金額が、純資産(ここでは資本金・資本準備金・利益準備金の合計額という意味です)を、発行済株式数で除した金額(一株あたりの純資産額)と、一致するわけではありません。
この一株当たりの純資産額に、売却する株式数をかけた子会社株式の相手勘定は、投資側企業(ここでは投資企業が、株式の51パーセントを超える経営支配権を獲得する親会社になるものと仮定します)では、貸借対照表の純資産へ計上されます。
「のれん」の計上
では、払込金のうち、純資産に相当する分を超える金額は、どこに計上されるのでしょうか?
重要な点は、この現預金の流出に対する相手勘定は、当期で販売費および一般管理費(以下では販管費と称します。)では計上できないということです。販管費で計上できないわけですから、当然、当期の損金計上はできません。
なぜかというと、一株あたりの純資産を超える株価は、売却企業の将来価値、DCF法から算出された将来生み出される付加価値であるからです。将来に生み出される価値に対する現金の支出は、これは、当期の費用でなく、将来の費用として、今期では資産計上しなければなりません。
具体的には、これを超える金額分は、親会社の無形固定資産である「のれん」として計上されます。そして、原則として、計上後20年以内という長期の定額法等による減価償却の対象となります。
つまり、この、のれんの減価償却は、非常に長期に及びます。しかも、付加価値算出の能力が高い企業ほど、DCF法から算出される付加価値は高額に及びます。一般的に、現在、日本で行われているM&Aの場合、相当堅実なM&Aにおいても、純営業利益(正確には、EBITDA)の6倍から10倍で買収が行われています。従って、相当な投資現預金分のキャッシュアウトが、投資年度には損金計上ができないことになります。
最近、少額M&Aを専門に扱うサイトが発展し、一次的に利益をえた企業が、いたずらに他の企業に投資をすることが散見されます。このような動きをする場合、その投資金が、ほぼ、今年度に損金が計上できないということを念頭において行動しないと、投資のキャシュアウトに加え、法人税等が、あとで課税され、大変なことになってしまいます。下手をすると、他の企業に投資をした翌年に、流動性の危機に陥るというような事態に陥りかねません。
「負ののれん発生益」の計上
では、今度は、逆に、投資金額が、一株当たりの純資産額に、売却する株式数をかけた金額より低かった場合その金額分は、どこにいくのでしょうか?
このような場合は、損益計算書の特別利益に「負ののれん発生益」として計上されるのです。
何故、この場合、投資企業側に収益が発生するのか、とても、不思議に思えるかもしれません。
一株あたりの純資産額よりも、投資金額が少ない企業の場合、投資を受ける企業は、現状の経営では、将来も赤字が続き、今後の純資産がマイナスになると予想される企業ということです。その将来のマイナスの付加価値を現在価値に引き直した結果、投資金額が純資産よりも小さくなるのです。
要は、企業再建のための投資ということで、投資企業は、自社の経営資源や、自社のシナジー効果で、再建が可能だと踏んで、投資を行います。そのため、買収時点では、このマイナス分が、特別利益として計上されるのです。
そうなると、当然、この特別利益分は、益金として法人税等が課税される点が、要注意なのです。従って、再建をできると踏んで投資をすると、更に、そこに入金がないのに、法人税等が課税されるということになります。
M&Aは勿論、知り合いの社長から頼まれて他の企業に資本をいれるという場合には、投資金額だけでなく、そこから発生する法人税等にも、充分な配慮が必要になります。現金が入ってこないのに、翌年には、相当な金額の納税をしなければならなくなるということですので、相当な資金力を持った企業でなければ、容易く、他者への投資を行うという判断はできません。この法人税等の金額を計算したうえで、それを加算したキャッシュアウトがあるものと覚悟して、M&Aや投資は進めなければなりません。
尚、従業員にストックオプションで株を賞与代わりに出すという場合や、役員に一株あたりの純資産額よりも安価で株を売るという場合には、今度は、所得税が従業員に課税され、更に、住民税が課税されますので、こちらも要注意です。
上場企業の株であれば、従業員は売却して納税ができますが、非上場企業の場合、売却できる価値はゼロですので、従業員や役員も、「株をただで貰える」「ボーナス代わりに株を貰う」などと安易に考えると、想定をはるかに超える所得税や住民税が襲い掛かってきます。このような場合、株を引き受ける従業員や役員に、相当な資金の準備がなければ、生活を破壊されかねません。
ご注意ください。
以上、参考になれば幸いです。
続く