税効果会計とは何か?
経理のご担当者をはじめ、会計の勉強をする方が、受験する日商簿記検定。その2級の、商業簿記の出題範囲の中に、税効果会計が含まれています。
日商簿記検定では、1級は「極めて高度」な商業簿記、2級は「高度」な商業補簿記と指定されていますので、税効果会計は、「極めて高度」ではなく、「高度」なレベルの会計なのだということがわかります。
つまり、公開会社・上場企業にだけ要求されてくる手法ではなく、非公開会社にも、要求されるレベルの手法なのだということでしょうね。
税効果会計とは、企業会計上の「収益・費用」と、法人税法上の「益金・損金」の認識時点の相違によって生じる額を「税引前当期純利益」に合理的に対応させる手続きのことを言います。
例えば、営業責任者の方が、取引先の信用調査を行うため、信用調査機関の報告書を見たとします。
その中に、その取引先の損益計算書が入っていました。
その時、税引前利益に対して、当期純利益が、アンバランスなことに違和感を覚えたとしましょう。
通常、法人税等の会社の所得に対して課税される税金は、
「大体、利益の30%程度」
と、営業責任者の方は理解されています。
しかし、損益計算書に記載されている法人税等の金額が、税引き前利益の30%という数字から大きくずれていることが、よくあります。
その理由は、過去の欠損金によって法人税等が大きく減少している場合もありますし、また、企業会計上の「収益・費用」と、法人税法上の「益金・損金」の認識時点の相違によって生じている場合もあります。
損益計算書の中に記載されている税引前利益は、会計上の収益から費用を差し引いた金額です。この税引前利益を、税務申告書の中の別表4を使って、税務上の益金・損金に加減して修正し、これを基礎に、法人税の課税金額は計算されています。そして、この法人税の計算を基礎に、法人地方税や、法人都道府県税、法人市民税、事業税が計算され、それが合計されて、法人税等の金額が決まってきます。そして、この税務上の数字を利用して、通常は、当期純利益が表示されるのです。
税効果会計は、この別表4で加減修正される項目のうち、認識時点の相違の部分を、会計上のルールに修正して、表示する会計手法なのです。
税効果会計の効能
企業の財務諸表は、その企業の利害関係人に対して、真実な会計を表示するための帳票です(企業会計原則・真実性の原則)。
しかし、企業の利害関係人の、財務諸表をみる動機は、一様ではありません。
例えば、税務当局は、適正な課税の目的で財務諸表をみます。
その企業に貸し付けを行っている銀行は、元本と利息の返済能力や、今後の融資が可能な安定的な収益が確保されているかという観点で、財務諸表をみます。
そして、株主は、株主持ち分である純資産や、配当の原資である当期純利益、そして利益剰余金などの社内留保を確認する観点で、財務諸表をみます。
そうすると、例えば、税務当局がみる視点と、株主が観る視点は、確実に異なります。
株主総会に提出する財務諸表は、いわば、株主という会社の所有者に対して、現在の取締役の「成績表」ですから、取締役は、再任のための株主からの信認をえるため、期間損益を、できるだけしっかりと主張し、「あなた方株主のために、これだけ利益を残しましたよ」と言いたいわけです。
そうすると、せっかくあげた利益が、税務上のルールによって、課税が余分に前倒しされてしまっていると、どうも具合が悪いのです。
そこで、税効果会計が必要になります。
M&Aや、借入銀行への「見栄え」
この、株主への見栄えというのは、何も、上場企業だけに必要とされているわけではありません。
最近は、M&Aを戦略的に利用し、事業承継や成長資金の投資先をサーチすることが、中小企業でも普通のことになりました。
このような場合、閉鎖会社であっても、株主への見栄えを気にする必要がでてきます。
加えて、銀行は元本返済能力を、当期純利益を基礎に返済余裕率という指標で判断していますので、新規借入を直近で検討する企業の場合、やはり、銀行への見栄えをよくする必要はあるのです。
このような観点からいいますと、税効果会計が、決して、上場する大企業だけのものであるわけではありません。
連結納税や、連結決算、本支店会計と同様に、中小企業でも必要な手法なのです。
現代の企業は、非公開の中小企業であっても、資金調達は多様化しています。戦略的な観点から、様々な資金調達の機会を利用して、成長を遂げる必要があります。
税効果会計も、そのような企業戦略を実現するための会計手法の一つとして、利用を検討してみることもよいのではないでしょうか。
以上、参考にしていただければ幸いです。
続く