株主からの払い込みをせずに増資をする方法

資本金の増資をするための原則論

企業の資本金は、貸借対照表の純資産の主たる構成要素です。純資産は、以前は、資本の部と呼ばれていた通り、主に、企業の資産のうち、株主持ち分を構成しています。

資本金は、その中でも、会社債権者にとって、会社の最終的な担保価値を表しています。従って、会社の信用の度合いを示す重要な指標です。

そのため、会社が成長をして、信用を増やしていく際、資本金を増やす必要があります。

しかし、日本の非公開会社の場合、その殆どが閉鎖会社であって、株式の譲渡制限条項が定款に記載されています。従って、オーナー株主以外の第三者に、新規に株式を引き受けてもらい、資本金を払い込んでもらうことは、難しいわけです。

一方、オーナー株主にも、手もと資金の都合もあって、どんどん、資金を会社に払い込んでもらうわけにもいきません。

ここが、閉鎖会社の資本金政策の難しい点です。

今回は、資金を株主から新規に払いこんで貰わなくても、資本金を増資できる方法について書いて参ります。

利益剰余金の資本金への組み入れ

その代表的な方法が、資本剰余金を資本金に組み入れる方法です。

企業は、営業活動の中で売上をあげ、その売上から利益を出していきます。損益計算書は、企業の会計年度における営業成績を表示しており、その最後の数字が、税引き後当期純利益です。この税引き後当期純利益の数字が、貸借対照表の利益剰余金の当期の増加数字に一致します。

つまり、利益剰余金とは、過去の会社の営業活動の結果、蓄積された利益をあらわしています。

会社法の計算規則の原則論からいえば、この利益剰余金は、株主に対する配当可能限度額を示していると解釈されています。

しかし、実務的には、日本の中小企業の場合、利益剰余金を株主配当することは、ほとんどありません。これは、グループ経営をしていて、ホールディングス会社が株主である子会社の場合は別として、それ以外の中小企業の株主が、社長本人またはその同族である個人であることに理由があります。

個人が株式会社から配当を受ける場合、その所得は配当所得となり、給与所得や事業所得との損益通算が認められません。そのため、配当所得の損金計上が殆どできず、その結果、所得税が多額に上ってしまうという税務上の理由があるからなのです。

株主と経営者を兼ねるオーナー社長の立場から言いますと、会社で法人税を課税され、その後の利益に所得税が課されるため、二重課税になってしまいます。そのため、配当を受けるくらいであれば、会社の損金で計上できる役員報酬を受け取ってしまうほうが、オーナー社長の目線から総合的に考えると、税制上、圧倒的に有利です。

※参考情報

ちなみに、親会社が子会社から配当を受ける場合、法人税同志の二重課税を防ぐ趣旨で、親会社の配当の収入には法人税が課税されません。子会社の利益を、配当の形で、親会社に吸収することが、税の負担なしにできるのです。これが、個人株主と、法人株主の、日本の税制から来る、決定的な差異であり、そのため、日本では、オーナーを頂点とするホールディングス会社を使ったグループ経営が、中小企業でも有利なのです。

この結果、日本の中小企業では、利益剰余金が配当で社外に流出せず、利益剰余金が、黒字が重なれば重なるほど、積みあがっていくのです。

この積みあがった利益剰余金は、そのままでは、貸借対照表を参照する利害関係人でなければわかりません。そこで、この利益剰余金を、外部に広く情報公開する資本金に組み入れ、信用をアップさせることができるのです。

資本剰余金の資本金への組み入れ

もう一つの方法は、資本剰余金を資本金に組み入れる方法です。

利益剰余金は、黒字決算を続けている企業であれば、中小企業でも蓄積されているのに対して、資本剰余金を計上している中小企業は少ないかもしれません。

資本剰余金の代表選手は、資本準備金です。

資本準備金が発生するのは、株主から払い込まれた資金で、資本金に組み入れずに資本準備金にした部分があった場合です。

資本金というのは、その金額が大きくなると、企業にとって都合の悪いこともあるのです。
一定の資本金額の会社に課せられる義務や税があるからです。そのため、資本金は、一定額に抑えておきたいのだけれど、株主からの資金調達は行いたいという事情が、会社にはあるのです。

その場合、株主の払込金額の二分の一を超えない金額を、資本金とせず、資本準備金として貯めておくことができます。この資本準備金を、その都合の悪い事情が消えたあとに、資本金に組み入れることができるのです。

資本利益区別原則との関係

ここで一点、注意点があります。

会計の大原則である、企業会計原則の一般原則には、「資本取引と損益取引を明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金を混同してはならない」と規定されています。

この原則によって、損益計算書によって算出表示される利益は、損益計算書の領域で算出表示される資本取引と混同することが禁止されています。従って、資本金に組み入れることができる利益は、あくまでも、期中の決算が終了し、利益が確定して、利益剰余金という貸借対照表の世界に移行した後でなければ、資本金に組み入れることはできないということを、理解しておいてください。

利益を出して、法人税等を支払った翌期以降でなければ、資本金に移行させることはできないのです。

逆に、そこをクリアーできれば、資本金は、株主から払い込まれなくても、社内留保された利益を使って、増やしていくことができるのです。

以上、ご参考になれば幸いです。

続く

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