金融庁の審議会による会計基準の国際化の議論
2023年5月から、日経平均株価は大きな上昇に入りました。
円安や、日銀の金融緩和政策の維持が、外国人投資家から買われていることが主な原因であり、これは短期的な上昇であるという見方があるとともに、一方では、東京証券取引所の改革が功を奏し、日本株式が将来的に上昇を続け、バブル期の最高額を上回るのではないかという見方もあります。
この中で、日本株式に、外国人投資家が大きな期待を寄せるファンダメンタルの変革の一つに、会計基準の国際化に関する議論に、金融庁が本腰をいれはじめたことがあげられます。
日本の会計基準は、世界の中では、かなりマイナーな基準です。
米国会計基準や、国際会計基準(IFRS)と様々な点で相違があり、日本の会計基準は、既に、世界からマイナーだとみられています。
海外投資家が、マイナーな会計ルールを採用する日本の市場に投資を長期的に行うことは期待できません。
それを踏まえ、金融庁が、会計基準の国際化の検討をはじめたことで、外国人投資家が、日本に期待を寄せているわけです。
のれん償却とは?
この会計基準の国際化の中で、最も注目される論点の一つが「のれん」の償却です。
「のれん」とは、M&Aにおいて、純資産を上回る価格で買収をした場合の差額を、無形固定資産として計上する場合に用いる勘定科目です。
のれん償却に関する日本の会計基準と、国際会計基準の違い
日本の会計基準と法人税務では、のれんを減価償却と同様に、一定期間での償却を求めています。
この方法は、買収会社の成長が投資の際のDCFに基づく想定を達しないなど、M&Aの結果が芳しくない場合に、財務の健全性が保たれるという意味では、適しています。
しかし、逆に、それはM&A直後における償却コストが重くなることを意味しています。
M&Aにおける成功・不成功は、実施後、数年でわかるようなものではなく、かつ、その成果も、グループ全体のシナジー効果などのファクターを複雑に評価して行われるべきものです。
そのため、「失敗を前提」に短期で償却をしてしまう日本の会計基準は、海外投資家からみると非常に理解しがたい基準で、したがって、日本と同様の会計基準を採用する国は、ほとんどありません。
国際会計基準(IFRS)では、のれんには、減価償却を求めません。
被買収企業の企業価値を継続的に計算し、価値が買収投資額よりも下がった場合に減損処理を行います。
したがって、IFRSでは、M&Aが圧倒的にしやすくなります。
一方で、株主との関係で、M&Aの失敗が株主にはっきりとわかってしまいますので、M&A投資に対する経営者の責任を株主から厳しく追及されます。
つまり、日本の会計基準は、最初から失敗を想定して減価償却をしてしまうため、DCF法で算定した投資時点の企業価値よりも、経営者が事業を失敗しても、その状態が株主に見えにくく、責任の所在を曖昧にできるという、非常に「日本らしい」方法なのです。
求められる、のれんに対する厳しいリスク管理
しかし、日本のプライム上場企業のうち250社、時価総額にして4割の企業が、既に、日本の会計基準を使っておらず、IFRSを採用しています。
IFRSに従わなければ、既に、外国人投資家の納得はえられず、市場における資金調達も充分にできない時代に入っています。
国際的に評価の高い企業から、税務当局や日本の会計慣行から脱却し、国際化する資本市場をにらんで、より厳しい基準を自らに課して、資本市場からの信用を重視する時代に入ってきました。
この動きは、2025年に設定されたプライム市場経過措置企業の廃止とともに、より強化されてくるものと思われます。そして、金融庁は、日本基準を廃止して、国際基準に全面移行する模索を始めました。
そうなれば、中小企業もIFRSに従う時代が見えてきます。
企業は、今後、より積極的にM&Aを活用して新規事業への参入スピードをあげるとともに、買収した企業の企業価値上昇に対するスピードを、益々あげてくる時代に入ったといえるのではないでしょうか。
以上、参考にしていただければ幸いです。
続く