「労働法」という、法律は日本にはありません
人事労務を初めて担当する方は、「労働法」という法律が存在しないということに、最初はびっくりしますよね。
大学の法学部では、労働法という講義があり、司法試験でも労働法という科目があるのに、労働法という法律は、日本には存在しません。
労働基準法・労働契約法・労働組合法など、多種多様な法律があわさって、「労働法」」という世界を構成しているのです。
さて、この中で、今日は、労働基準法と、労働組合法に関する話題です。
これらの労働法の世界では、労働者と使用者という用語で、働く側と働かせる側を表現します。
労働基準法と、労働組合法では、「労働者」という用語の定義が違う
この労働者と使用者という二つのテクニカルタームは、法律用語としては、労働基準法と労働組合法で、定義が違います。
これを知らいないと、人事部門の労働組合対策で、大きな間違いを犯すことになりますので、注意が必要です。
労働基準法にいう労働者とは、「職業の種類を問わず、事業・・・に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されます(労働基準法9条)。この定義を満たすものは、労働基準法の保護を受けられることになります。
「アルバイトに、有給休暇を与える必要があるのですか?」
という質問がよくありますが、アルバイトは、事業に使用され、賃金を支払われていますから、社員でなくても、有給休暇を与えなければなりません。最低賃金法や労働者災害補償保険法の労働者も、労働基準法上の労働者と同じと解されていますから、アルバイトが入社をすれば、労災はかけなければならないのです。
一方で、最近話題になっているUberEats(ウーバーイーツ)の配達の仕事に関しては、自営業者であって、「事業に使用されている」わけではありません。従って、彼らは、現在の労働基準法のもとでは、保護されません。
年収2000万円を超えるインテリジェンスビルで働くサラリーマンが労働基準法や労働災害補償保険法で守られ、自分の自転車やバイクで、夜中まで走り回っているUberEats(ウーバーイーツ)の配達員の方が、一切、守られないというのは、おかしいではないか、という議論はあるのですが、現在の労働基準法は、このような働き方を想定していないため、現在では、このような解釈にならざるをえないわけです。
これがよいか悪いかは、ともかくとして、自営で仕事をする方は、少なくともそれを理解し、リスクを理解したうえで、仕事をする必要があるわけです。
一方、労働組合法の労働者は、定義が違います。
労働組合法は、労働者を「職業の種類を問わず、賃金、給与その他これに準ずる収入によって生活をする者」と定めています(労働組合法3条)。
「事業に使用される」というフレーズが入っていません。
そうすると、先程のUberEats(ウーバーイーツ)の配達の仕事をしている自営業者の方も、この労働者には含まれます。そうすると、彼らは、労働基準法の保護は受けないけれども、労働組合を作って団結し、使用者である会社に対して、労働条件の改善の交渉をすることを認められる、ということになります。
業務委託契約で仕事を貰っている自営業者や、現在、失業をしている人も、労働組合法の労働者に該当することには、学説上、異論がありません。
人事労務に従事する方の、労働組合対策の対象は、社員だけではない、ということを理解しておく必要があります。社員じゃないから、労働者ではなく、無理なことを要求しても問題ない、と経営者が勘違いしていると、労働組合の結成をされ、団体交渉を受ける可能性があるということを理解しておく必要があります。
UberEats(ウーバーイーツ)の配達員や、業務委託で契約している人たちは、自営業ですから、労働基準法の適用は受けませんが、一方で、会社に対して、労働組合を結成して、団体交渉を行うことで、自分たちの条件を改善することができるのです。
労働基準法と、労働組合法では、「使用者」という用語の定義も、違う
労働者の定義だけではなく、「使用者」(雇用側のことを、労働法のテクニカルタームでは、「使用者」と呼びます)の定義も、労働基準法と労働組合法では、異なります。
労働基準法の使用者は、同法が定める法的義務と責任の主体です。
労働契約の当事者である会社は勿論ですが、そこで管理職になっている部長さんや課長さんも、使用者となります。
例えば、中間管理職である課長さんは、上司の部長さんとの関係では、労働者に該当しますが、部下との関係では、使用者に該当します。中間管理職とは、その立場によって、労働者と使用者の二面があるということになります。
ですから、課長が、部長の指示で、部下に対して、労働基準法や就業規則に定める労働条件よりも加重な労働を部下に命じて課した場合、会社も、部長も、課長も、すべて、労働基準法違反を問われます。
労働基準法という法律は、民事法ではありますが、刑罰法規も規定されていますから、最悪、課長さんも、労働基準法違反で逮捕される可能性があるのです。
「会社から命じられて、ただ、部下に強制しただけです。」ということは、通用しませんので、注意が必要ですね。
一方、労働組合法の使用者で注意をしなければならないのは、使用者に親会社も含まれる、という点です。
親会社が、自分の会社の社員にさせられない長時間労働や、危険な仕事を、子会社に、無茶ぶりし、労働者が団体交渉を行う場合、親会社の社長は、団体交渉の場に出席をするのを拒否できません。
労働法が、労働基準法や労働組合法など、多種な法律で構成されているのは、このような同じ用語の定義すら、そもそも違うということによっています。
ご注意ください。
以上、参考にしていただければ幸いです。
続く